前が見えない。
音も聞こえない。
身体中を掻き回すようだった、落下の感覚はどこかに行ってしまった。
何も感じないせいで、かえって穏やかだ。
何でこうなっちゃうんだろう。
彼女のもとに帰るという意地が、余計に僕を泥沼に引きずり込んでいるような気がする。
決意は揮発して、己を奮い立たせるのに必死になる。
悪しき物事を避けたいあまりに、
悪しき物事を呼び寄せている。
……思えば僕は、何かに本気で挑み続けた試しが無かった。
絵描きを辞めたって、僕は生きていくことができた。
数々の生命の終わりと向き合っても、僕自身の終わりを見出すには至らなかった。
反骨心みたいなものが溢れても、必ず一歩足りないから、
最後は身を任せるようにしてやり過ごすしか無くなった。
斜に構えていたけども、いつだって死にたくなかっただけなんだろうな。
僕が掴み取ったものは、運良く握らされたものばかりで。
僕が必死に欲しがったって、遠ざかるものは遠ざかる。
だからたぶん、今必要なのは……
"偶然"を見逃さないことで。
『NEVER LET YOU GO』
彼女が僕の指輪に刻んでくれた言葉がある。
旅の無事を祈る、かみさまのおまじないがある。
鈴の音が聞こえる。
「せめて、前を向こう。」
これまでも、そうやって"見付けて"きたのだから。