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シソウヤマの方便

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挿絵:画面いっぱいの、黒色と空色の墨流し模様(マーブル模様)。

兄なるものの出現に、タイマは肩をこわばらせ、目を見開いていました。
呼吸を整えてから、ようやく口を開きます。

顔アイコン:不安げに歯を食いしばるタイマ

……にいちゃん。」

アイコン:黒色と空色の墨流し模様

え?」

顔アイコン:真剣な顔のタイマ

わしの、実の……血の繋がった、にいちゃん。」

アイコン:黒色と空色の墨流し模様

えっ!?」

顔アイコン:薄ら笑顔の別部

そう、タイマの兄ということはおぬしの兄でもあるってわけじゃ、弟なる泥よ。」

アイコン:黒色と空色の墨流し模様

どういうことだよ。」

別部は軽薄に笑い、しかしその鋭い瞳は到底なごやかなものではありません。
タイマもまた険しい顔のまま、別部を睨み上げるばかり。
再会を喜ぶこともなく、むしろ緊張が走ります。

アイコン:黒色と空色の墨流し模様

喧嘩でもしてるのか?お前ら……」

顔アイコン:真剣な顔の別部

そんなことより、このクダメ泥をどうにかしてほしいんじゃよね。
おぬしのお陰で地獄の施設がめちゃくちゃなわけ。

そうじゃろ?閻魔よ。」

視界の隅に、白銀の鬣が揺れました。
淡い光が、ゆったりと歩み寄ります。

挿絵:シソウヤマの姿、白銀の鬣を持つ獅子。瞳は水晶のように透き通っている。

シソウヤマです。

アイコン:黒色と空色の墨流し模様

げえ、DV神!!」

顔アイコン:見下ろしながら笑う別部

超不遜じゃん。」

アイコン:黒色と空色の墨流し模様

だって、こいつのせいだよ!僕がとんでもないことになってるの!」

顔アイコン:目を瞑るシソウヤマ

あの程度、阿鼻の責め苦と比べれば詮無き事。
全て其方の業縁より出ずる報いであると知れ。

泥の肥大は落下の苦によるものではない。
其方自身の苦によるものである。」

アイコン:黒色と空色の墨流し模様

……どういうことだ。」

顔アイコン:真剣な顔のシソウヤマ

其方、落下の折……暫く"夢"を見ていただろう。」

アイコン:黒色と空色の墨流し模様

なぜそれを?」

顔アイコン:真剣な顔のシソウヤマ

我は亡者の真実を見る。
其方が愛する者の夢を見て、ここまでやり過ごしたことなど把握済みである。」

顔アイコン:真剣な顔のタイマ

覗き見か?悪趣味な奴じゃな。」

顔アイコン:真剣な顔のシソウヤマ

何とでも言え。何と言おうと、真実は揺らがぬ。
其方の苦痛の正体は、其方が夢に見た『愛する者との幸福』にこそあるのだから。」

アイコン:黒色と空色の墨流し模様

……妻は関係ないだろ。」

顔アイコン:真剣な顔のシソウヤマ

いいや、関係ある。

其方は、災禍を司る守護竜によって託された流星。
いずれ災禍として衆生を苦しめることを約束された存在。

永き時を妻と過ごした末に、辿り着く姿がこの"クダメ泥"なのだ。

其方とて、妻を苦しめたくはないだろう。
苦しみを与えてまで共に在ろうとは思わないだろう。

ならば泥の災禍よ、受け入れよ。」

顔アイコン:怒るシソウヤマ

この地獄にて焼け落ちることが、其方にとって最善なのであると!」

空気が張り詰めました。

空洞はしんと静まり返って、亡者たちの視線は白銀の鬣に釘付けです。
やがて、斑紋漂う壁がゆったり揺れました。風がひと吹き、張り詰めた空気を押し流します。

アイコン:黒色と空色の墨流し模様

なるほど。
お前は、僕に妻を諦めろと言いたいわけか。

確かに、どんな穏やかな時でも悩みは尽きない。
誰と一緒にいようが、幸せだろうが、苦しみが潰えることはあり得ない。

認めるよ。
僕は文字通り"苦痛を糧"に生きる絵の具なのだから。」

アイコン:黒色と空色の墨流し模様

でも、だからこそ、僕の絵の具が増え続けるのは当たり前のことだ。
増えた分はいつも、老廃物と一緒に丸めてポイしてるんだからさ。
そこは普通の人間と同じだよ。」

顔アイコン:真剣な顔のタイマ

えーと、それはつまり……」

顔アイコン:真剣な顔の別部

糞か。」

顔アイコン:唖然とするシソウヤマ

   」

アイコン:黒色と空色の墨流し模様

そう、う○こしないまま、落下し続けたら大変なことにもなるんだよ!

お前が僕を落としさえしなければ、こうはならなかった。
違うか!?」

顔アイコン:怒るシソウヤマ

通常の人間の亡者はこのように無限に糞を溜め込んだりはせぬ!
このビックリ糞泥生物!!」

顔アイコン:半目で呆れるタイマ

汚ねえ。」

顔アイコン:真剣な顔の別部

まあ死屍糞泥地獄とかもあるし多少はな?」

アイコン:黒色と空色の墨流し模様

というかさ、お前本当に真実とか見えてるの?
僕がビックリ糞泥生物だと知ってれば、未然に防げたんじゃないの?
うっかり僕を人間の亡者と思って堕としたとかじゃないの?」

顔アイコン:怒るシソウヤマ

見えている!
無論、其方が絵の具であることは知っていた!
だが想定外の未来や『何これ怖……』みたいなコンボが決まったりとかは知らぬのだ。
万能と思ったら大違いである!」

アイコン:黒色と空色の墨流し模様

ふーん?」

顔アイコン:怒るシソウヤマ

本来、地獄の行き先は十人の王の裁定により決まるが、其方の存在は異常事態。
ゆえに我の独断で行き先を決めた……

速やかに事態を収束せねばならないのだ!」

顔アイコン:真剣な顔の別部

異常事態ほど独断で決めない方がいいと思う。
報連相大事じゃし。」

顔アイコン:慌てふためくシソウヤマ

うおおーーー!其方はどちらの味方だ!!」

挿絵:画面いっぱいの、黒色と空色の墨流し模様(マーブル模様)。

逃げ場を失っていくシソウヤマは、太い四つ足で地団駄を踏みました。
いよいよ周囲の亡者たちが、困惑した様子で顔を見合せます。

顔アイコン:不安そうなタイマ

急に威厳がゴミクズみたいになったが大丈夫かこの神。
みんな変な顔になっとるぞ。」

アイコン:黒色と空色の墨流し模様

まあ、焦ってるんじゃないかな……いろいろと。

じゃあさ、地獄から出る方法を教えてよ。
ようは僕がここからいなくなれば万事解決でしょ?」

顔アイコン:真剣な顔のシソウヤマ

焼却ではなく、地獄からの脱出を望むと?」

アイコン:黒色と空色の墨流し模様

僕を焼いたりなんかしたら、苦痛で余計に肥大するかもしれないよ。
また迂闊なことして悪化させたくないでしょ。」

シソウヤマはしばし押し黙り、再び空洞は静けさに包まれます。
いくら威厳が落ちつつある獅子神といえど、淡く光る白銀の鬣をなびかせ、目を伏せるその立ち姿は凛としていました。
亡者たちは息を飲みます。

やがて、シソウヤマは一言。

顔アイコン:目を瞑るシソウヤマ

……"解脱"しかない。」

アイコン:黒色と空色の墨流し模様

解脱?」

顔アイコン:真剣な顔のシソウヤマ

仏となるということだ。

仏の境地に到れば全ての苦は消え去り、真の幸福に目見える。
そして地獄を脱し、涅槃に至ろう。
涅槃とは一切の苦無き世界。いかなる時空の壁も無く、自由となるのだ。

望みさえすれば、妻との再会も成し得よう。」

アイコン:黒色と空色の墨流し模様

ほんとに!?」

顔アイコン:真剣な顔のタイマ

待て。
苦しみが全て消え去るなら、にいちゃんは跡形もなくなるんじゃないのか?」

顔アイコン:真剣な顔のシソウヤマ

其方は仏を無きものと申すか?
否。至るのは苦をものともせぬ心であって、消失ではない。」

顔アイコン:不安げに歯を食いしばるタイマ

にいちゃんは、苦痛でしか生きられぬ生物じゃ。
苦を苦と思わぬことは、蓄えを失うのときっと等しい。
どうなってしまうかわからんぞ!」

アイコン:黒色と空色の墨流し模様

タイマ。」

顔アイコン:叫ぶタイマの横顔

にいちゃんからもなんか言え!こいつ胡散臭すぎるんじゃ!」

アイコン:黒色と空色の墨流し模様

いや……

今、進むには……たぶんこれしかない。
どうにかここまでこれたんだ。僕は今更消えたりしないよ。」

顔アイコン:叫ぶタイマの横顔

じゃが……!」

アイコン:黒色と空色の墨流し模様

大丈夫。
きっと、うまくいくから。」

顔アイコン:嬉しそうなシソウヤマ

左様、うまくいく。
よし、こうなれば早速準備だ。
まずはこの場に沈んだ亡者を皆引き上げなくては。急ぐぞう!」

 

顔アイコン:怪訝そうな別部

……望みさえすれば、なァ。」