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解脱RTA

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挿絵:画面いっぱいの、黒色と空色の墨流し模様(マーブル模様)。

顔アイコン:真剣な顔のシソウヤマ

其方、弟は同席しなくて良いのか。」

アイコン:黒色と空色の墨流し模様

集中したいからね。
ほら、解脱って言うからには、厳しい修行をしたりとかするんでしょ?」

顔アイコン:目を瞑るシソウヤマ

修行などしない。」

アイコン:黒色と空色の墨流し模様

え?」

顔アイコン:怒るシソウヤマ

苦しいのは逆効果だと言ったばかりだろう。
其方にはすぐにでも地獄から立ち退いてもらわねば困るのだ!
そんな悠長なことできるか!」

アイコン:黒色と空色の墨流し模様

修行を悠長とか言うな。」

顔アイコン:真剣な顔のシソウヤマ

もっと良い方法がある。ずばり、仏の道を辿るのだ。」

アイコン:黒色と空色の墨流し模様

仏の道?」

顔アイコン:目を瞑るシソウヤマ

生誕から入滅まで、その生涯を辿れば自ずと悟りは開ける。」

顔アイコン:真剣な顔のシソウヤマ

具体的には、生まれてすぐに立ち上がり、7歩歩いてから『天上天下唯我独尊』と言う。」

アイコン:黒色と空色の墨流し模様

何て?」

顔アイコン:真剣な顔のシソウヤマ

まず、生まれろ。」

アイコン:黒色と空色の墨流し模様

何て???」

顔アイコン:真剣な顔のシソウヤマ

右手で天を、左手で地を指すのも忘れるな。」

アイコン:黒色と空色の墨流し模様

無理だよ!もう生まれてるから!」

顔アイコン:目を瞑るシソウヤマ

……四十九。」

顔アイコン:怒るシソウヤマ

そなたが『生まれて』から、今日で四十九日だ。

生後49日!仏としては些か遅いがリカバリーはきく、だって赤子としてはすごいから!
さあ立て!7歩歩け!」

アイコン:黒色と空色の墨流し模様

お前は何を言ってるんだよ!華の44歳だよ!」

顔アイコン:真剣な顔のシソウヤマ

それは現世における生だろう。

現世におけるそなたは44歳で死に、亡者として生まれ直した。
死から所定の地獄に辿り着くまでにかかるのは”49日”と決まっている。
今頃現世では親族一同、比丘でも呼んでいる頃だ。」

アイコン:黒色と空色の墨流し模様

比丘……
いやそれより、49日しか経ってないの!?数年は経ってると思ったのに!」

顔アイコン:真剣な顔のシソウヤマ

いや、地獄時間で言えば2000年ぐらい経っている。」

アイコン:黒色と空色の墨流し模様

地獄時間って何!?」

顔アイコン:目を瞑るシソウヤマ

地獄と現世では時の流れ方が異なるのだ。更には、堕ちた地獄によっても異なる。
其方がいる無間地獄の刑期は、地獄時間で言えば64000年だが……」

アイコン:黒色と空色の墨流し模様

長すぎでは?」

顔アイコン:真剣な顔のシソウヤマ

現世で言えば、349京2413兆4400億年。」

アイコン:黒色と空色の墨流し模様

?????」

頭がくらくらしてきたところで、銭田はますます重大な事実に気付きます。
これは無間地獄で過ごすたった1日が、現世においては果てしない年数であることを示しているのです。

きちんと換算すれば、無間地獄で1日過ごすごとに、現世では6400年が経つことになります。

アイコン:黒色と空色の墨流し模様

え?やばくない……?
このままもたついてたら……)

挿絵:画面いっぱいの、黒色と空色の墨流し模様(マーブル模様)の中に、空色の小さな人型が浮かび上がる。右手で天を、左手で地を指している。

銭田は大慌てで、泥のような絵の具を揺り動かしました。
闇色にじんわりと浮かび上がる、空色の絵画。小さな人の姿。

1、2、3。

歩みを進めて。

4、5、6。

堂々と7歩目を。

アイコン:空色の小さな人型

てんじょう……なんだっけ!?」

顔アイコン:慌てふためくシソウヤマ

ズコー!!!」

アイコン:空色の小さな人型

ごめん忘れた!もう一回教えて!」

顔アイコン:怒るシソウヤマ

『天上天下唯我独尊』!!
己は生まれたこの瞬間から、この世界でただ一人の尊い存在である、という尊い意味だぞう!!」

アイコン:空色の小さな人型

てんじょうてんがゆいがどくそん!」

顔アイコン:嬉しそうなシソウヤマ

生誕おめでとう!」

アイコン:空色の小さな人型

で、生まれたらどうする!?」

顔アイコン:真剣な顔のシソウヤマ

そなたが地獄の11人目の王となることを約束する。」

アイコン:空色の小さな人型

何で!?」

顔アイコン:真剣な顔のシソウヤマ

仏はかつて王族だったところを出家したのだ。
王族をやめるためにはまず王族になってもらう。」

アイコン:空色の小さな人型

な、なんだかなあ……」

顔アイコン:真剣な顔のシソウヤマ

そしてもうひとつ。

仏はかつて結婚していた。
妻と子を捨てるため、妻と子を持つのだ。」

アイコン:空色の小さな人型

なんだとお!?」

顔アイコン:嬉しそうなシソウヤマ

そなたは優秀だな〜あらかじめ捨てる妻を持っているなんて!」

アイコン:空色の小さな人型

捨てる妻言うな。」

顔アイコン:きょとんとしたシソウヤマ

……何で子はいないの?」

アイコン:空色の小さな人型

デリケートな問題に触れるな。」

顔アイコン:真剣な顔のシソウヤマ

仕方ない、子は弟を代用せよ。
どうせ血も繋がってないし、弟と言うには小さすぎると思っていたのだ。」

アイコン:空色の小さな人型

殴っていいか。」

顔アイコン:キラキラしたシソウヤマ

やめろ。

そのように怒ってはいけない……これもすべては妻のもとに帰るため。
生涯はままならぬものなのだ……(キラキラ)(なんか尊そうなオーラ)」

アイコン:空色の小さな人型

…………」

顔アイコン:嬉しそうなシソウヤマ

よし、黙った!論破!)

アイコン:空色の小さな人型

………………」

顔アイコン:嬉しそうなシソウヤマ

………………」

アイコン:空色の小さな人型

………………」

顔アイコン:慌てふためくシソウヤマ

い、いや、やっぱなんか言え。おーい!」

アイコン:空色の小さな人型

……何も言うことはないよ。
それで、次は?王の座も家族も捨てればいいの?」

挿絵:画面いっぱいの、黒色と空色の墨流し模様(マーブル模様)の中に、空色の小さな人型が浮かび上がる。右手で天を、左手で地を指している。

ぶっきらぼうに言い捨てる青い人型。
しかしシソウヤマの導きには逆らわず、粛々と仏の道を辿ります。

何よりも大切なものを置き去る頃、人型の胸には小さな火が灯っていました。
青白く光り、心拍のように震えては波打ちます。

それを見たシソウヤマは、瞬く間に顔を綻ばせました。

顔アイコン:嬉しそうなシソウヤマ

お、いよいよやる気になってきたな!
見事である。その身に火を灯すとは、やはり其方には機運があった。」

アイコン:空色の小さな人型

何これ。あつ……くはないけど、どういうこと?」

顔アイコン:嬉しそうなシソウヤマ

悟りに近づいたということだ。

煩悩は積み上がる薪。
それを焼き尽くせば悟りは開ける。

やがて其方は、炎となるのだ。」

火が少しだけ大きくなりました。
徐々に勢いを増しているのがわかります。

人型は正直、実感が湧きませんでした。
悟りに近いと言われても、胸の内で膨れ上がるのは不安ばかりだからです。

顔アイコン:嬉しそうなシソウヤマ

さあ、解脱まであと一息!妻のため、もう一踏ん張りだぞう!」

妻のために解脱を目指し。
解脱のために妻を捨て。

如何にも愚昧な坂道を、鈴の音は転がり続けます。