挿絵:燃え盛る真っ青な炎

 

アイコン:黒色と空色の墨流し模様の左手

……静かですね。

あれほど不安や恐れに塗れていた心が乾ききったよう。

望まなければ、叶わぬ願いはない。
動かざるものに、立ちはだかる壁はない。
そこにあるものこそが……

幸福。」

顔アイコン:目を瞑るシソウヤマ

其方は実に優秀である。
この短時間でここまでに至ろうとは。

さあ、あとは沙羅双樹のもとで入滅するのみだ。」

顔アイコン:真剣な顔のシソウヤマ

……否、まだか。
其方、まだ捨てきれてはいないな。
妻のことを。

致し方なかろうな。
指輪を捨てたところで、心の底から諦めるのは容易くはない。」

アイコン:黒色と空色の墨流し模様の左手

………………」

顔アイコン:真剣な顔のシソウヤマ

諦める方法を教えてやろうか。」

顔アイコン:目を瞑るシソウヤマ

祈るのだ。

其方の思いを我に託せ。
我は地獄にも、現世にも赴く。其方の言葉を、其方の妻に届けられる。
我は衆生の救いを望む者。祈りに耳を傾ける者。」

顔アイコン:サイのような角が生えたシソウヤマ

我が真の姿は……”諦聴”也。」

顔アイコン:目を瞑る諦聴

このままでは其方の妻は永遠に其方を待ち、燻り続けるのみ。
それではあまりに哀れなことだ。
其方は仏になったのだと伝えさえすれば、妻もまた其方を諦めることができよう。
新たな道が開けよう。

妻の幸せを真に願うならば……」

アイコン:青白いキキョウの花

それは、本当に私やあなたが渡すべき引導でしょうか?

彼女が私を諦め、新たな道に進むかは……
きっと、彼女が見定めること。」

アイコン:青白いスターチスの花

それに、シソウヤマ。あなたは勘違いをしていらっしゃる。
私はいずれ、彼女にも会いに行くつもりです。
この地獄で苦しむ全ての亡者を、救った後にはなりますが。

衆生の幸福を願うなら、『妻であった者』の幸せもまたそこに含まれるでしょうに。
捨てるべきは不平等な契りのみであって、彼女のことをも捨てることにはなりません。」

顔アイコン:目を瞑る諦聴

其方が赴かずとも、我に託す方が早いぞ。」

アイコン:黒色と空色の墨流し模様の左手

急いても事は為せませんよ、シソウヤマ。
あなたとて、先に赴くべき場所は溢れるほどあるでしょう。」

顔アイコン:真剣な顔の諦聴

…………」

アイコン:黒色と空色の墨流し模様の左手

案ぜずとも、私の思いに偽りはありません。
私は、仏の炎となる……揺らぎは無い。

して、上から我が『子』が来ています。
彼と話がしたいのですが、よろしいですか?」

アイコン:青白いハナミズキの花

私と彼は一心同体。
断ち切るべきは、彼の執着です。

さもなくば、この業縁を終わらせることはできないのですから。」